高選択的アリル化反応の開発

有機合成化学は、分子変換技術の提供や機能物質の生産を通じて材料科学、医薬農開発、生命科学の進展に大きな貢献をしてきました。しかし真の物質生産に結びつけるには幾つかの課題が残っています。その一つとして挙げられるのが化学反応における『選択性』の問題です。つまり理想的な分子合成には化学選択性 (官能基許容性、立体障害の許容性、100%収率)、位置選択性、立体選択性を兼ね備えた合成反応が必要不可欠です。特に単純かつ迅速にそして無駄なく合成する必要がある複合系機能性物質や多官能性生体関連分子には、これら選択性の要求が最も厳しいものであります。こうした問題を解決するために、私たちはアルキル化の一種であるアリル化において極めて重要な位置選択性の問題解決を軸として反応開発に取り組んでいます。その結果、基質の構造に依存しない新しい形式のγ位置選択的アリル化反応開発に成功しています。

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パラジウム触媒による
γ選択的立体特異的アリル–アリールカップリング反応

銅触媒による
γ選択的立体特異的アリル–アルキルカップリング反応

パラジウム触媒による酢酸アリル類とアリールホウ酸のγ選択的カップリング反応を開発しました。光学活性酢酸アリルの反応は脱離基と求核剤が1,3-synの関係で立体特異的に進行します。パラジウム錯体とアリールホウ酸との金属交換で生成する求電子的なアリールパラジウム種が不飽和結合への付加 (挿入) とβ脱離を段階的に起こす機構を経由します。

9-BBN-H によるアルケンのヒドロホウ素化で生成するアルキルホウ素化合物と (Z)-リン酸アリル類のカップリング反応が銅触媒によってγ選択的に進行します。光学活性リン酸アリルの反応は脱離基と求核剤が1,3-antiの関係で立体特異的に進行します。アルキルホウ素化合物と銅錯体の金属交換によって中性アルキル銅(I)種が生成し、C=Cへの付加/β-脱離を経てカップリング体が得られると考えています。

銅触媒によるケテンシリルアセタールの
γ選択的立体特異的アリル位アルキル化反応

 
 

銅/β-ジケトン型触媒によるケテンシリルアセタールのγ選択的アリル化を開発しました。光学活性リン酸アリルの反応は、1,3-anti の関係で立体特異的に進行し、キラルなγ,δ-不飽和エステル化合物が生成します。穏和な反応条件と幅広い官能基許容性により、本手法はクライゼン転位の代替法として利用できます。

 

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